ボディガードの握手指導

COVID-19で握手をする機会もかなり減りました。しかし、今日のテクニックはCOVID-19が完全に終息して、以前のような生活を取り戻した時にきっと参考になると思います。

握手と言えば、警護対象者(以下「V」)が政治家であれば選挙活動などで支援者から、著名人であればファンたちから求められることが多いのではないでしょうか。相手が支援者やファンであれば問題はありませんが、時にはそういった支援者やファンにまぎれて、手をギュっと強く握ったり、握った手を離さなかったりする人がいる場合もあります。

以前、某ボディガードスクールでは、こうした場合の対応として相手の親指をひねり上げたり、警棒を利用したペインコントロールテクニックを指導しているのを見たことがあります。こういったテクニックを教えることも、生徒がこうしたテクニックを知っておくことも間違いではありません。しかし、こうした状況を作る原因について考え、リスクを和らげる対応を指導するスクールは残念ながら多くありません。

何度も言っていますが「プロ」のボディガードは、警護対象者の身の安全のみならず、イメージも守る必要があります。イメージを守る為には、周到な準備がより大事です。

手をギュッと強く握られ、痛みで顔をしかめるVを助ける為に、相手の指をひねり、手を強引に引き離す行為は、警護を知らない人の目には「恰好いい!」とか「このボディガードは良い仕事をした」と映るかもしれません。しかし、警護を知る人がまず注目するのは、そういった状況を回避するためのプランがあったかどうかです。どんなにプランを用意していても、事件は起きるときには起きます。ものごとに100%はありませんが、プランを持って任務にあたるのと、そうでないのとでは後の対応も大きく異なってきます。

ではこの状況で考えられるプランとはなにか。それは、Vに手を痛めにくい握手の方法を指導することです。以前、選挙中1日で数百人と握手をしたことで骨折をしたり、相手に手を握りつぶされ骨折したりすることが多くなったことから、警護業界では特殊な握手の仕方が生まれました。人差し指を伸ばした状態でする握手にすると、相手の手の方が大きく力が強くても、そう簡単には手を握りつぶされることがないことが分かったのです。それからの警護業界では、選挙活動中のVや多くの人と握手をする著名人の警護を担当する際には、事前にこの握手を指導するようになりました。

人差し指を伸ばした握手は、形が少しいびつになりがちなので、全ての人にこの握手をする必要はありません。相手が良く知る人物の場合や、明らかに自分より力が弱い子供などと握手をする際には普通の握手をすれば良いと思います。しかし、よく素性が分からない、自分よりも手が大きく力も強そうな相手の場合には、人差し指を伸ばした握手をするように勧めます。指を一本伸ばすだけで、とても簡単で誰にでも出来ることなので、これを教えられて「そんな面倒なことは出来ない!」というVは、これまで見たことがありません。

普通の握手
ボディガードが教える特殊な握手

ほんのちょっとしたことでも見た目からだけでは考えられない効果を生むこともあります。ボディガードは、固定観念にとらわれず、広く、色々な角度から物事を見られないと務まりません。といってもなかなか簡単なことではありませんので、そこはチームで補うことになります。ボディガードという仕事が1人では出来ない理由は、ここにもあります。私が以前所属していた国連本部の警護チームでは、アメリカ、アルバニア、イスラエル、ウクライナ、エジプト、ガーナ、ガイアナ、ケニア、コソボ、コロンビア、ジャマイカ、セルビア、タンザニア、中国、デンマーク、ドイツ、ドミニカ、トリニダード・ドバゴ、ノルウェー、パキスタン、ハンガリー、フィリピン、ボスニア・ポーランド、南アフリカ、モンテネグロ、ルーマニア、レバノン、ロシアの出身者たちとチームを組んできました。シークレット・サービスを始め外部の警護組織のチームと一緒に仕事をする際に、「そんなに多国籍だとチームをまとめるのが大変ではないか」と聞かれることが良くありました。確かに多国籍だと、常識を始め、考え方もまちまちなので、ワンチームにまとめることは簡単ではありません。しかし、多国籍だから持ち得る強みがあり、それが育った環境や文化、そして受けてきた教育も違うことで生じる違いが色々な角度で物事を見ることを可能するという点でした。

テレビや映画の影響で、ボディガードというと物事が起きてからの対処ばかりに注目されがちですが、本当のプロは策(プラン)により物事を起こさせないものなのです。物事が起きてしまってからの対処では、例えVの命を護ることが出来たとしても任務的には失敗です。こうしたことも、私が常々、ボディガードには腕っぷしよりも頭が大事だと言っている理由の1つでもあります。もちろん、プロですから最悪の場合も想定して最低限の格闘術や射撃技術も習得しておく必要もあります。

今はコロナで、飲み会なども自粛中ですが、コロナが終息して、また以前の生活に戻った際に飲み会などこのテクニックを教えてあげると盛り上がりますので、ボディガードでなくても話のネタに覚えておくと、どこかで役に立つかもしれません。まずは家族や友人を相手に、指一本でも大きな違いになる握手を経験してみて欲しいです。


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