ボディガードの話術② ~タクティカル8からのタクティカル5~

今でも警察官の過剰対応が問題視されることはありますが、今から20年前の1991年当時も、ロサンゼルス暴動のきっかけとなったロドニー・キング事件が起きるなど、全米で警察官による過剰対応が問題視されていました。そこで、警察は、過剰対応により失墜した信用を回復するため、The Use of Force Continuumと共にVerbal Judoを訓練に取り入れたのです。

Verbal Judoは、会話で相手を落ち着かせ、状況を悪化させないためのテクニックで、1983年に元英語教授という異色の経歴を持つ警察官ジョージ・トンプソン氏によって作られました。映画やドラマでは、「警察だ!身分証明書を見せろ」と言う警察官もいますが、今の時代そんな超高圧的な口の利き方をする警察官はほぼいません。Verbal Judoでは、まず相手にアプローチする際、「タクティカル8」と呼ばれるテクニックで会話を始め、そしてその後必要があれば「タクティカル5」へと移行していきます。

タクティカル8

①    まずは相手が不安を感じたり緊張したりしないよう「おはようございます」や「こんにちは」といった挨拶から切り出します。警察に限らず、人として挨拶は基本的なことですが、意外にこの基本の挨拶が出来ない人が多いのです。

②    挨拶のあとは、相手も誰と話をしているのか分からなければ不安になるうえ、よく話を聞こうという気持ちにもなりません。そのため、まずはしっかり「○○警備会社の○○です。」といった感じで名前と所属を相手に伝えます。

③    相手に自分が何者か分かってもらったあとは、 「失礼ですが、関係者の方でしょうか?こちらは○○時から○○時まで関係者以外立ち入り禁止となっているため、誤って入られたのかと思い、声をかけさせてもらいました」といった感じで、相手の立場を確認すると同時に声をかけた理由を伝えます。

④関係者ではない場合は、立入の正当な理由(許可など)があるかを問います。

⑤    そして④で正当性が認められなかった場合に初めて相手の情報(名前や職業、連絡先)等を問います。

⑥    ここまでで得た情報をまとめます。

⑦    どのように対応するのかを決めます。更に情報等が必要な場合には、タクティカル5へと移行します。

⑧    ⑦でこれ以上引き留めておく必要性がない場合には、「これで大丈夫です、ありがとうございました。もしまた何かあれば、連絡をさせて頂くこともあるかと思いますが、その際にはご協力よろしくお願い致します」と言った感じで会話を閉めます。

タクティカル5

①    「申し訳ありませんが、ここからすぐに立ち退いてください」等、こちらのお願いに対して協力を促します。

②    「こちらは、関係者以外立ち入り禁止のエリアとなっています」と①のお願いをした理由を説明します。

③    相手がこちらのお願いに対して聞く耳を持たない、もしくは拒否する場合には、どのようなことがその後起きるのかを説明します。例えば、「今すぐにこの場を去って頂けない場合には、不法侵入として警察に連絡をします」といった感じです。

④    ③の後、少々様子をみます。

⑤    相手がこちらの要求に応じない場合には、③で説明したとおりに警察に連絡をする、もしくは相手が暴れたりした場合には、the Use of Force Continuumのガイドラインに従い、相応の力をもって対応をします。

とても常識的なことばかりで何一つ特別なことはありませんが、会話が苦手な人や緊張しやすい人はVerbal Judoのようにシステマティックな会話術を日頃から意識して練習をしておくと良いかと思います。VIPの警護であっても、何か特権があるわけではありません。相手のことも尊重し、こちらのお願いを聞いてもらえるような話術を身に着けることがボディガードには必須なのです。


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