残念ながら、民間の警備会社に勤めた経験がないので、民間警備会社所属の警護員が空港でどのようにVIPを受け入れ、送り出しているのか分かりません。今回は、私が約10年間警護のキャリアを積んだ国連本部の警護チームでは空港で民間の航空会社を利用する際どのような対応方法をしていたか少しだけ紹介したいと思います。
国連本部警護チームは、警護対象者(以下「V」)を送り出す際も迎えに行く際も通常はゲートまで行くのが決まりです。アメリカでは、Aカードと呼ばれる空港職員、Port Authority Police Department (PAPD)のオフィサー、State Departmentのエージェントが持っているアクセスカードがあります。しかし、国連本部の警護チームは当然これを所持していないので、事前にState Departmentに連絡し、そこからPAPDと航空会社へ連絡をとってもらい、当日はゲートまでエスコートしてもらいます。PAPDがエスコートをしないといけない理由は、国連本部警護チームも銃を携帯しているためです。銃等の武器を携帯していなければ、航空会社にパスを発行してもらいPAPDのエスコートなしにゲートまで行くことも可能です。日本では、外務省経由で空港と警察へ連絡をしてもらい、当日は外務省の担当官、警視庁SP、そして空港の職員同伴の上ゲートまで行くことになります。他の国も大体同じような手続きで、ゲートまで行くようになります。
送り出しの際には、Vと一緒に渡航する警護官たちがVのパスポート等の必要書類と預け荷物を持って事前に空港へと行き、チェックインを済ませておきます。Vは、チェックインのために受付カウンターへ寄る必要もないので、フライトの直前に空港に着けば大丈夫です。Vによっては、空港には余裕をもっていき、ラウンジでゆっくりすることを好む人もいますので、空港への到着時間はVの好みによってまちまちで、特に決まった時間はありません。アメリカの場合は、カスタムの担当者が同行してくれ、歩きながらパスポートに出国スタンプを押してくれますが、そうでない場合もあるので出来ればラウンジに一度入り、そこで出国スタンプを押してもらうようする方がミスも少なく好ましいです。ラウンジを利用する場合には、先着の警護官が、渡航しない警護官たちもラウンジに入れるようにアレンジをしておきます。
セキュリティチェックについては、国連事務総長の場合、Head of State (HS)扱いをしてもらえることが多く、免除だったため心配をする必要がありませんでした。Vと一緒に空港に来る警護員たちは(1)武装している(2)搭乗しない、という2つの理由から同様にセキュリティチェックは免除されていました。もしVも一般客と同じようにセキュリティチェックを受けないといけない場合には、並ばずに済むように特別レーンの使用の許可やパイロットやフライトアテンダンスのように列の前の方に入れてもらえるようにアレンジをしておきます。なおVもセキュリティチェックを受ける場合には、Vが空港に着く前に、事前にその旨を伝えておく必要があります。現場で伝えるとVは、警護官たちのミスだと勘違いさせてしまう可能性があるので、それを避けるためです。
国によっては、車列のままターマックまで入り、車列から飛行機に直接乗り込むこともあります。しかし、いかなる状況でもVが飛行機に乗り込むことをしっかり確認することには変わりはありません。Vを空港まで送ってきた警護官たちは、Vと一緒に渡航する同僚警護官がいるので、機内まではいかずに乗客が全員搭乗して飛行機のドアが閉まるまですぐ近くで待機します。しかし、ドアが閉まったからといってすぐに帰路につけるわけではありません。飛行機が牽引車によってスポット(駐機場)から離れたらそばにいる必要はなくなりますが、完全に離陸するまで空港を離れるわけにいきません。これは何らかのトラブルで帰還した場合に備えての対応です。本来は、燃料などの関係で出発地にはもう戻ってこれないPNR(Point of No Return/帰還不能点)を越すまで、空港で待機しておくのが理想ですが、国際便などだとPNRを越すまでに数時間かかることもあるため、短時間のフライトの場合にはしっかり待つこともありますが、国際便の場合には適当なところで切り上げることが多かったです。
よそから来るVを迎えに行く際も送り出す際と同じでゲートまで行きます。国連本部の警護チームでは飛行機のドアが開いた瞬間にVが最初に見るのが警護官であれという決まりがありました。Vと一緒に到着した警護官はVのパスポート等、イミグレーションでの入国審査に必要な書類をVから預かります。航空会社に預けた荷物もすべて入国のチェックインをする担当者の名前にしておくことで、荷物が届かない等のトラブルが起きた際でもその人がその場で全て対応が出来ます。これによりVはイミグレーションで止まることがなく、車列まで行くことが可能になります。預け荷物がある場合も、パスポートを預かった警護官が回収して、後から追いかけて荷物を届けるようになります。とにかく飛行機から降りたら、止まらずに車列までスムーズに行けるように対応します。到着後、Vがラウンジで歓迎などを受ける場合は、その間に荷物の受け取り等が完了でき、誰も空港に残らなくて済むこともありますが、そうでない場合、空港に残り入国の手続きや荷物を受け取る担当官用に車列とは別の車を用意しておく必要もあります。
日本は、ルールに忠実、悪く言えば少し融通が効かないところがあり、Vであってもイミグレーションでパスポートに入国許可のスタンプが押されるまで空港を出さないようにしているので、Vにはゆっくり歩いてもらい、その間にパスポートを持つ警護官がイミグレーションまで走るという対応をしていました。
民間警備会社でどこまで出来るか分かりませんが、こういった警護の仕方もあるんだというのを知ってもらい少しでも参考にしてもらえればと思っています。
航空機におけるボディガードのポジションについては以前書いているので、興味がある方はまとめて読んでいただけましたら幸いです。
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