コードネーム

アマチュア無線では、無線をする際に電波法令で識別信号コールサイン)を送信して通信するように義務づけられています。しかし警備業でよく使用される無線は、免許局であっても登録局であっても個人資格は不要な為、アマチュア無線のようにコールサインを送信する必要がありません。

秘話コードを付加して暗号化することで、以前のアナログ無線のように簡単に盗聴されることはなくなりましたが、それでも念には入れて、プロのボディガードは無線でのコミュニケーションの際に様々なコードを使用します。コードネームもその1つです。コードネームは、コールサインと同じように警護員1人1人に与えられ、警護対象者にも同様に与えられます。

アメリカ大統領の警護を担当するシークレットサービスが大統領にコードネームを付けることはとても有名です。有名過ぎて、シークレットサービスのコードネーム自体に秘話コード的な意味合いは既にありませんが、シークレットサービスが利用する無線は日本の警察無線や消防無線と同様、もしくはそれ以上に守られており、そう簡単には盗聴が出来ないので民間警備会社ほどその点については神経質になっていないのでしょう。

日本の某民間警備会社が警護対象者に「イーグル」というコードネームを使っているようですが、イーグルはビル・クリントン元大統領のコードネームでした。前述の民間警備会社のように、どの警護対象者であっても同じコードネームを使うところもあるようですが、シークレットサービスのように大統領ごとに異なるコードネームを使った方が、警護対象者が複数いる際にも混乱せずに良いと思います。そしてコードネームは、警護対象のイメージにピッタリなものであればあるほど覚えやすくて良いでしょう。

たとえば前大統領のドナルド・トランプ氏のコードネームは、「Mogul(モーグル)」でした。モーグルには、富豪などの意味があるので彼にはこれ以上のコードネームはありません。

現大統領のジョー・バイデン氏は、コードネームに「Celtic(セルティック)」を選んだようですが、これはアイルランドの先祖を持っていることに由来しているようです。

ちなみに英語のニュースを見ているとアメリカ大統領のことを「POTUS(ポータス)」と呼んでいるのを聞くことがあります。このポータスをアメリカ大統領のコールサインだと勘違いしている人も稀にいますが、ポータスはPresident of the United Statesの頭文字を取った略語でコールサインではありません。ちなみに大統領夫人(First Lady of the United States)は、その頭文字を取り「FLOTUS(フロータス)」と呼びます。

コードネームは、秘話性以外にも発音がしやすく、そして聞き間違いを減らす目的でも使われています。無線でのコミュニケーションは、出来るだけ短く簡潔にする必要があり、コードネームはその手段の1つでもあります。余談ですが、国連本部に勤務している際に、GothaneとMankaniという名のインド人同僚がおり、私もFukutaniで苗字の最後の部分の音が似ているため、3人が同じ朝礼に参加していると点呼の際に誰が呼ばれているのか分からないことが時たまありました。こんなにも全然違う綴りでも聞き間違いが起こってしまうのですから、普通に会話するよりも聞き取りづらい無線ではなおさらで、だからこそコードネームがとても重要になります。人だけでなく、エアフォース1マリーン1ステージコーチ(※ビーストのこと)など飛行機や車などにもコードネームを付けるのは、無線での聞き間違いや勘違いを避けるためでもあります。

コードネームは、ボディガードだけでなく、施設警備でも役立ちます。警備員が配置される場所にポストネームを付け、無線ではそのポストネームを使うことで無線でのコミュニケーションを簡潔化することが可能ですし、聞き間違いも減ります。ポストネームを付ける際には、「正面玄関」や「○○通り口」などではなく、「Post One」など誰でも簡単に発音でき、聞き間違いが少ない英語にするのと良いと思います。他にも無線でのコミュニケーションを簡潔化させるテクニックとして10コードなどもありますが、長くなってしまったのでまたの機会に書こうと思います。


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