第2話では、全体を通して「ドラマとしての演出上の見せ場」を重視した描写が多く見られました。
ただし、実際の警護業務を熟知する立場から見ると、現場運用としては危険な行動や判断が散見されます。
本稿では、あくまで作品を否定する意図ではなく、警護という職務の理解を深める一助として、専門的な観点からいくつかの場面を検証していきます。
1. 警護車両の選択について
対象者が1名であるにもかかわらず、スライドドア式のワゴン車を使用していた点は理解しがたい選択です。

スライドドアは開閉に時間がかかり、緊急脱出時に不利になります。
リスクレベルが低い場合には、随行者を同乗させる意図でこの車両を選ぶことも運用上はあり得ますが、今回のケースではそのような背景は描かれておらず、実務的には不適切といえます。
また通常、随員(アシスタントや秘書など)が複数同行する場合であっても、彼らは対象者とは別の車両に乗車します。
その車両は警護の対象外となり、警護上の主軸である「対象車」と「セキュリティカー」の後方を走行するのが一般的な配置です。
この原則を守ることで、対象車と随行車が混線せず、警護隊は常に対象者を中心に警戒ラインを構築できます。
また、2台体制で移動しているにもかかわらず、前方を走る対象車両の車高が後方のセキュリティカーと同等かそれ以上である点も問題です。
この構成では、後方車両からの視界が制限され、前方状況の把握や通信指令が遅れるおそれがあります。
実際の警護運用では、後方車両から対象車を常時視認できる車両構成を取ることが基本です。
2. 蕎麦屋でのシーンに見る基本動作の欠如
蕎麦屋の場面では、2台の車両を並べて駐車し、さらに運転手までもが店内で昼食を取っている描写がありました。
現実の警護任務においては、運転手は常に車両内で待機し、万一の際にはすぐに退避行動を取れるようにしておくことが基本です。
また、車両を無人状態で放置することは、不審物を仕掛けられるリスクを伴うため、避けなければなりません。
さらに、対象者を外から見える窓際の席に着席させた点も大きなリスク要因です。
ガラスは物理的衝撃に対して脆弱であり、特段の理由がない限り、窓際に対象者を座らせることはありません。
警護における席の選定は、常に「視界より安全距離」が優先されるのが原則です。

3. 接触後の対応と優先順位の誤り
蕎麦屋での接触シーンにおいて、対象者がすでに車両内へ退避した後、PPOが対象者を離れ、女性に自身のスーツジャケットを掛けに行く場面がありました。
人間的な優しさとしては理解できますが、職務上は明確な誤りです。
警護員は常に対象者を中心に行動し、どのような状況下でも優先順位を見失ってはなりません。
「優しさ」と「任務遂行」は、時に厳しく切り分ける必要があります。
4. サービスエリアでの動線管理
すでに接触事案が発生しているにもかかわらず、サービスエリア内で対象者が徒歩で車に戻る描写も問題です。
本来であれば、車両側が出入口付近まで移動し、対象者のエクスポージャータイム(外部に晒される時間)を最小限に抑えるのが正しい対応です。
リスクレベルが上昇している状況で、対象者を開放的な空間に長く留めることは、警護上の重大な判断ミスとなります。
5. ロッジでの避難行動と警護意識の欠如
山小屋に避難するシーンでは、先着した隊員が内部を確認する描写があったものの、その後にPPO本人が対象者を残して外周を確認しに行く行為は不適切です。
PPOは対象者の至近距離を離れず、外部確認は別の隊員に指示を出して行うのが原則です。
さらに、ロッジに戻ってすぐに私的な通話を始めるという行動は、任務中の警護員として論外です。
職務意識の欠如であり、現実であれば即座に任務解除の対象となるレベルです。
6. 「任務失敗」を意識しない演出
そして極めつけは、対象者が逃走し、結果として完全に警護任務が破綻しているにもかかわらず、PPOが「この任務は絶対に失敗できない」と口にするシーンです。
現実の警護業務においては、すでに複数回対象者を危険に晒した時点で任務は失敗と見なされます。
したがってこの台詞は、プロの目から見れば非常に違和感のある表現でした。
本来なら「どの時点で失敗が発生したか」を即座に分析し、次のリスクを防ぐための再評価が求められるのが実務です。
7. 総括
本作では、ドラマとしてのエンターテインメント性を重視しているため、実際の警護運用とは大きく異なる描写が多く見られました。
しかし、こうした作品を通じて「警護」という職業の存在が一般に広く知られることは非常に意義深いことです。
警護とは、派手なアクションよりも、地道なリスク評価と冷静な判断、そして徹底した準備によって成り立つ職務です。
本ドラマをきっかけに、1人でも多くの方がこの仕事の本質に興味を持ってくだされば、現場に携わる者としてこれほど嬉しいことはありません。
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