ボディガードに必要な学歴

以前、「警備業界の地位向上に必要なこと」で教育の重要性を説きました。しかし、現状は日本に限らず海外でも警備業従事者の採用時に高い学歴を求める雇用主が依然少なく、底辺職の域をいつまで経っても抜け出せないでいます。

警備業の1種であるボディガードも例外ではなく、“採用条件”に提示される必要な学歴は高校卒業もしくはGED程度なことがほとんどです。国連本部警備隊も実際は大卒のみならず博士課程まで修了している人も多数在籍していますが、国連の他職種とは異なり“採用条件”で求められる学歴は高校卒業/GEDでした。

文部科学省の「学校基本調査」によると、日本では2020年春に卒業した高校生のうち55.4%が現役で大学・短大に進学しています。アメリカは日本よりも更に高く62.7%が大学・短大に進学をしています。半数以上の学生が大学・短大に進学する時代なのに、なぜ警備員になるための採用条件には学歴不問や高卒と他業種に比べ易しくなっているのでしょうか。因みに法律では、年齢や性別による採用制限は禁じられていますが、学歴による採用制限は今のところ規制されていません。

アメリカの経済学者ブライアン・キャプラン氏は、「教育内容ではなく卒業証書に価値がある」と公言しています。いわゆるシープスキン効果です。大学を卒業しているからといって、高校しか卒業していない者よりも必ずしも優秀ではないということです。しかし、そういう考え方もある一方で、ノーベル経済学賞の受賞者のマイケル・スペンス氏の「シグナリング理論」では、履歴書や簡単な面接で応募者の能力を正確に把握できない企業は、採用時に応募者の学歴を判断材料の1つとして使うので、賢い人はより高い学歴を得ると説いています。

警備業はちょっとしたミスが大きな事故につながってしまう、大きな責任が伴う仕事です。そういう仕事だからこそ、慢性的な人材不足とはいえ、質より数ではなく、数より質の採用を目指し警備会社の採用条件をもう少し厳しくしても良いのではないでしょうか。

ボディガードは、クライアントにとって家族よりも一緒に過ごす時間が長くなりうる存在です。いつも身の回りにいて、自分の命を護るボディガードと全くコミュニケーションを取らないクライアントというのはかなり稀です。そして、ボディガードを雇うような地位にあるクライアントの多くは、高学歴で優秀な人が多いのです。因みに私がこれまで警護を担当してきた人たちの学歴を調べてみたところ、①ソウル大学(韓国)卒業後、ハーバード大学(アメリカ)で修士、②テークニコ高等学校(Instituto Superior Tecnico/リスボン大学)(ポルトガル)卒業後、同大で助教授、③ダルエスサラーム大学(タンザニア)でLLB、LLMを取得後、コンスタンツ大学(ドイツ)で博士課程修了、④ヨーテボリ大学(スウェーデン)、⑤レディング大学(イギリス)と皆その国のトップ大学を卒業していました。こうした人たちと対等に話し、警護についてもクライアントに納得がいくような説明をするためには、ボディガード自身にも専門的な知識と教育が必要です。

ボディガードを目指す人にとって、セキュリティを専門的に学べる学部もない日本では特に大学進学の必要性を実感することは難しいかもしれません。しかし、セキュリティを学べなくても、特別興味のある分野がなくても、大学に進学をしておくことは、将来ボディガードをする際に必ず活きます。これまでも何度も当ブログでも書いていますが、警護は統計学を筆頭に数学的に、効果的な警護策を練るので、希望する学部がない場合にはとりあえず理系を選ぶことをオススメします。


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