まずは下の写真を見て下さい。この写真からどんな印象を持ちましたか。
背中を丸め、手を股の間に挟むような姿で撮られた岸田総理の姿には、残念ながら威厳が感じられません。見方によっては、その姿はボケっとした感じにすら見えてしまいます。岸田総理がこの会の間中ずっとこのような姿勢だったのか、それともたまたま写真を撮られるタイミングが悪く、このように写ってしまったのかは定かではありません。ただ、どちらにしろ、あまりイメージが良くない写真が残ってしまったことは事実です。
背中が丸まっていくことは、歳を老いていくうえで自然なことで悪いことでもなんでもありませんし、攻められることでもありません。しかし、政治家にとって、「老い」を感じさせることは、支持を集める上でプラスに働くことは多くありません。もし岸田総理がこの丸まった背中から、「老い」ではなく、努力や忙しさによる「疲労」を市民に訴えようという意図があればまた話は変わってきますが、大抵の人は、国のトップにはパワフルでエネルギッシュ、国民の先頭に立ちグイグイ引っ張っていくリーダーシップを求めています。
著者がこれまで警護をした警護対象者の中にも、老人性円背の傾向がある方がいました。正面や横からでも遠目であれば特に気がつくこともありませんが、真横に行くとさすがに背中が曲がっていることが分かります。イメージをとても大事にする警護対象者だった為、この方の警護の際には絶対に横からのショットは撮らせないようにしていました。これまでも何度も書いていますが、警護の任務は命を護るだけでなく、対象者のイメージを守ることも重要な任務です。
円背であるかに関係なく、警護チームはリスクマネージメントとしてメディアが写真を撮る位置なども気にかける必要があります。特に座った状態では、同じ姿勢であっても正面から撮られた写真と横から撮られた写真では、見るものに全く異なる印象を与える可能性もあります。例えば、今回の岸田総理の写真も正面からであれば、前のめりになって興味津々というような感じに写っていたかもしれません。
先日読んだ企業危機管理士の教本によると、不祥事の記者会見では謝罪の気持ちが何より重要であり、発表者が取材者を見下ろす形になるひな壇の使用は不遜な態度を感じさせる為に避けるべきとあります。また手元の資料、メモなどを撮影され、無用の疑念を持たれるおそれがあるため、発表者の後方にカメラマンを入れることはさけるべきとあります。
このように今や一般の企業ですらリスクマネージメントして、どこからどのように撮影されるかを気にする時代であり、警護もただ対象者の命を護るだけを考えているだけではもう時代遅れです。
※広報担当者がいる場合であっても、メディアの配置等は警備・警護上の問題でもあるので無視することは出来ません。
少し前にニューヨークの地下鉄の広告で一躍有名になった言葉に、「Manspreading」というものがあります。Manspreadingは男性によくみられる大股開きのことで、こうした行為で無駄に席を独占するのを広告で抑止するためのものでした。Manspreadingは、何もニューヨークの地下鉄に限ったことではなく、一般的にあまり好意を持たれる姿勢ではありません。特に日本では「威張っている」、「誠実ではない」といったネガティブなイメージを持たれてしまうことが多いように感じます。女性の警護対象者がスカート姿でインタビューや撮影をしている際にふと気を抜いてしまい足を開いてしまった瞬間を撮られ、それが公に出てしまった場合にもイメージに傷がついてしまいます。警護対象者がスカートをはいてインタビューや撮影を受ける際には、先着警護がひざ掛けを事前に用意したり、足元が写らないような配置取りをするなどの気配りをすることも必要です。
メディア対応は、1人では出来ませんが意外に簡単に訓練が出来てしまいます。下に貼ったサンプルのような感じでパートナーに色々なシチュエーション(同じポーズで正面からや横からなどと角度を変えて)写真を撮ってもらい、出来上がった写真を、撮影角度によるイメージやリスクを分析することで傾向がつかめるようになります。皆さん、ぜひ挑戦してみてください!
実際に色々写真を撮って見直してみると、正面見ると良くない姿勢であっても横からそこまで気にならなかったり、逆に正面からでは問題なく見える姿勢が横からだと良くない態度に見えてしまったりすることに気がつくことが出来ます。
※警護のメディア対応については依然書いた「レッドカーペットとメディア」も一緒に参考にしてもらえると幸いです。
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