先入観を捨てる勇気

失敗を過度に恐れて何もしないのが国民性なのかと思ってしまうほど、挑戦や戦いを避ける人が日本には多い気がします。自ら逆境に飛び込み、「駄目で元々」どころか、どうしたらこの状況で成功するか、勝てるか考えるのを楽しんでしまう筆者には、それがもどかしくてなりません。

そこで「ダメ元」の例として、筆者がアメリカに住んでいた頃、実際に経験したある出来事を一つ紹介します。

場所は通勤時間帯に大渋滞することで有名なニューヨーク、マンハッタンの東側を走るフランクリン・D・ルーズベルト・ドライブ(以下、「FDR」)です。その日、国連での勤務を終え、ニュージャージーの自宅に戻る為にその道を走っていた筆者は、途中で渋滞にハマってしまいました。こうなったら、その場から30分ほど動けないことも多いので、ギアをパーキングに入れ、音楽を楽しんでいたその時です。バックミラーの後続車の姿がどんどん大きくなっていくのが見えました。しかし、この渋滞ではどこにも逃れようがありません。クラクションを鳴らしたのですが、手遅れで後ろから来たその車に追突されてしまいました。

追突してきた車の運転手は渋滞で暇を持て余し、携帯電話で誰かと話をするうちに、意識がそちらに向いてしまい、ブレーキから足が離れたことにも気付かず、車が進んでしまったようです。スピードがそれほど出ていなかったので、幸い怪我を負うこともなく、車自体にも大したダメージはありませんでした。しかし、相手に100%非がある事故なのに、自身で車を修理する事には我慢が出来なかったので、すぐに警察を呼びました。

10分ほどすると、黒人女性警察官と白人男性警察官のペアが事故現場に到着しました。筆者には、黒人女性警察官が、そして事故を起こした白人男性運転手には白人男性警察官が事情聴衆をする事になりました。筆者の元に来た黒人女性警察官はとても感じの良い方で、筆者が今は大丈夫でも、後ろから追突された場合後で鞭打ちなどの症状が出るかもしれないから警察のレポートが欲しくて呼びましたと伝えると一定の理解を示してくれ、筆者の身体の心配もしてくれました。

しかし、その後、追突をした側の聞き取りを終えた白人男性警察官が筆者の元に来ると、驚くことに「なんでこのぐらいのダメージで警察を呼ぶんだ」と筆者をいきなり責めてきたのです。この白人男性警察官の方が黒人女性警察官よりも位が上なのか、白人男性警察官が筆者の元に来るとすぐに黒人女性警察官はその場を去りパトカーの中に戻ってしまいました。

一方、追突してきた車の運転手にチラッと目を向けると、彼はニヤニヤと笑っているのが分かりました。筆者は「マイノリティであるアジア人のお前が俺らの国で何が出来るんだ」と問われているように感じ、ここで負けてはいけないと思いました。筆者が「目で見えるだけがダメージではない」とその白人警察官に言うと、その白人男性警察官は、「ブレーキランプがひとつ切れている。これは明らかな違反だ」と言いました。そして、続け様に事故のレポートを求めなければ、これは見逃すとも言われました。きっとこう言えば「違反切符を切られるくらいなら」と事故のレポートを諦める人が多いのでしょう。相手が外国人なら尚更です。

それに対して筆者が「後ろから追突された衝撃で電球が切れたとは思いませんか」と問うも、その警察官は聞く耳を持たなかったので、不本意でしたが点検不備の違反切符を受けとり、事故のレポートをお願いしました。そして、去って行く警察官に対して「裁判所で会おう!」という言葉を残しました。

その後、点検不備の違反チケットに不服を申立て、その件で裁判所に出廷することになりました。ちなみに、この程度の違反チケットの場合、大抵の警察官はいちいち裁判所には来ません。警察官が出廷しない場合、裁判官により無罪してもらえたり、減刑になったりすることが多いので、アメリカで違反チケットを貰った場合、とりあえず出廷してみる価値ありです。

裁判の日、筆者が裁判所に到着すると既に白人男性警察官は到着していました。出廷してこないだろうと思っていたので、席に座る彼を見つけ少々驚きましたが、それ以上に怒りが沸々とこみあげてきました。もちろん警察官が出廷してきたら全面対決するつもりでいたので準備に抜かりはありません。この白人男性警察官が書いた事故のレポートも事前に警察署に出向き入手、そして違反だと言われたブレーキランプもしっかり修理し、そのレシートも持参しました。

裁判が始まると、先ずは警察官が裁判官に事情を聞かれます。この警察官は、公式な書類である警察官のメモブックをチラッとチェックしてから、悪びれるそぶりもなく、「◯月◯日の◯時ごろ、FDRを巡回中、ブレーキランプが切れたまま走行する筆者の車を見つけ、停車させて違反切符を切りました」と答えたのです。それを聞き、まともな警察官ではないことを再度認識し、怒りで身体が震えたのを今でも覚えています。

筆者の番になり、裁判官から事情を聞かれたので、「先ほど警察官は、彼が違反を見つけたので停車させたと発言しましたが、実際は事故の被害に遭った私が警察を呼びました。実際に彼が書いた事故のレポートがここにあります。このレポートと違反切符の日時と場所を確認してください」と裁判官に訴えました。幸いにも、担当の裁判官がアメリカではアジア人と同様に長くマイノリティとして扱われてきた黒人女性だったこともあり、「準備万端でしたね。グッドジョブ!」という言葉と共に「無罪」の判決が下されました。さらに、裁判の順番を待つ人が多くいる前で裁判官が警察官を厳しく叱りつけたのです。周囲からは、小さなアジア人が起こした痛快撃に対して裁判所と言う厳粛な場所であるにも関わらず、ワッと拍手も起こりました。そして、裁判官から怒られ、周りからブーイングを受けた警察官は面目丸潰れで、そそくさと裁判所を後にしていました。

警察官相手に外国人が何を言っても勝てないという先入観を持っている人だったら、理不尽だとは思っても「嫌な警察官に当たってアンラッキーだったけど仕方ない」と諦める出来事かもしれません。しかし、勝手に結果を決めつけて諦める前に、どうしたら勝てるか考えたり、調べたりすれば、筆者のように意外とどうにかなるものです。どうせだめだと思っているのなら尚更、失うものはありません。挑戦さえすれば、運が味方することだってあります。弱腰にならず、仮に失敗したとしても、何もしなかった場合と結果が同じなら、ぜひ思い切って挑戦してみて下さい。

※どこかに当時のレポートが残っているので、見つかったら公開します。


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