ボディガードにおける物理の法則

厚生労働省による国民健康・栄養調査は、国民の栄養状況や栄養素などの摂取量を把握するために毎年実施されている全国規模の調査です。その令和元年の報告書によると、日本人の平均体重は男性が62.7キロ、女性が50.8キロとなっています。それに対してアメリカの平均体重は、National Center for Health Statisticsによると男性が約90キロ、女性が約77キロとなっています。

食事(栄養状況)や生活環境の変化により、日本人の体格は飛躍的に向上し、身長にいたっては100年前と比べると平均で15㎝も高くなりました(1978-1979年以降は、また平均身長が低くなっているというデータもあるようです)。今日では、現在アメリカのメジャーリーグで活躍する大谷翔平選手のように外国でも全く見劣りしない体格、そしてパワーに恵まれた日本人も現れるようになりました。しかし、その一方で、「細いこと=スタイルが良い」と思っている人も多くおり、体重に関しては平均身長ほど大きな変化がありません。

(写真)ニューヨークの街で見かけたモデル。モデルならこういうスタイルが良いのでしょうが、ボディガードとなると、こんなに細いと仕事になりません。

アメリカでは、日本とは正反対に「マッチョイムズ」が根づいていて、男性も女性も痩せている人よりもガッチリとしっかり筋肉がついた身体が好まれています。これは、ハリウッド映画などを観て頂ければ、すぐに分かると思います。NFL出身でプロレス団体WWEを経由し俳優になった「The Rock」ことドウェイン・ジョンソン氏が良い例です。

密度がしっかり詰まった筋肉は、脂肪より20%も重いため、筋肉という鎧をまとった身体は、脂肪や脂肪すらない骨と皮のやせ細った身体より当然重くなります。余談ですが前職の国連本部には、警備隊員専用のジムがあり、隊員たちの多くは勤務前や勤務後は勿論のこと、休憩時間ですらジムでガンガン筋トレをしていました。

海外で活躍するボディガードと言うと、テレビやドラマの影響で派手な射撃の腕前や格闘術ばかりに関心をもつ人が多いのですが、前述の技術を実際に使うことはほぼありません。それに比べ、群衆の中で人を押し分け道を作ったり、近づいてくる人を押さえたり、跳ね返したりといったアクションを要する場面は頻繁にあります。そのため、ボディガードには、押したり引いたりといった基本的な肉体の強さが求められます。

物理の法則」を理解していれば、分かることですが、同じ重さの球を左右からことがしてぶつけた場合、この2つの球はぶつかった場所で止まります。しかし、片方の重さが、一方の半分だとしたら、「運動量保存の法則」で衝突後、2つの玉は重さが半分の方へと転がります。重さが2倍違う物体が衝突した際に生じる衝撃は、重さが軽い方が重い方の2倍に、重さが3倍違う物体の場合には、軽い方の衝撃は3倍になります。軽自動車が、何倍も重さがあるダンプカーと衝突すれば、軽自動の方がダンプカーに比べて何倍も大きな衝撃を受けます。つまりやせ細った身体では、自分よりも大きくて重い相手が体当たりしてきた際に、非常に大きな衝撃を受けてしまうと言うわけです。

私も、身長が低い自分には力よりもアジリティだと思い、意図的に体重を落とした時期がありました。しかし、その際にそれまではあまり感じることがなかった相手からの重圧や力負けを感じるようになってしまったため、ダイエットはすぐに中止し、もともとの体重に戻しました。

(写真)警護ではなければ、これぐらいの体重でも良いのですが、警護をするのには軽過ぎました。

ボディガードは、最悪な場合には盾となることもありますので、身体は大きいに越したことがありません。しかし、残念ながら身長は自分ではどうにも出来ません。ただ体重は、身長に関係なく日々の努力でどうにでもなります。筋トレなどを全くしない素の状態であれば、身長が高い人の方が低い人より体重は重くなります。しかし、筋肉をつけるのには、高身長の人よりも低身長の人の方が有利だと言われています。身長の高い人は、必然的に手足も長く、そのためダンベルやバーベルなどの重量を挙げる際の間接モーメント(モーメント=力×距離)が大きくなります。結果的に同じ重量を挙げるのでも、背の高い人は背の低い人よりもより大きな力が必要となります。つまり私と同じように身長がそれほど高くなくても、筋肉をつけるという面では、背が高い外国人との間にはハンディはないということです。

(写真)警護をするには、これぐらいの体重の時が外国人を相手にしても当たり負けすることがなくて良かったです。

筋肉をつけるとおしゃれな服が着られない等、色々な理由から筋トレなどで体重を増やすという行為に積極的になれない人もいるかと思います。しかし、心配しなくても大丈夫です。ボディビルダーのように筋肉を極限まで肥大化させる必要はありません。ボディビルダーのように極限までに筋肉を肥大させてしまうと、逆に動けなくなってしまいますし、存在自体が目立ってしまい、ロープロファイルの警護の任務に不向きなってしまうなどの弊害もあります。やはり何事も適度が大事です。これからボディガードを目指そうという若い方々は、俊敏性も失わない程度に、筋肉を付け、適度な体重を保つようにしてください。


カテゴリー

投稿一覧は、こちら

最新情報をチェックしよう!