広島で開催されるG7会合を来年(2023年)に控え、安倍元首相の件もあり、「もうこれ以上世界に恥を晒せない!」と、ニュース等で日本の警察の新部署や訓練などについて盛んに報道されます。これを機に信頼回復をしたいでしょうし、開催が近づくにつれ関係部署の緊張感は高まっていると思われます。しかし残念ながら、日本の治安の良さには信頼を寄せている主要国の警護陣も、関係を悪くする必要はないので敢えて言わないだけで、安倍元首相の事件以前から日本の警察に全面の信頼を寄せている訳ではありません。
そもそも海外の警護官と日本の警護官の間には大きな考え方の違いがあります。海外に行く際、総理大臣や天皇の警護と言う名目で申請さえすれば、拳銃を海外に持ち出すことも、海外で拳銃を携帯することもさほど難しいことではありません。それにも関わらず、未だ自国に来る海外要人警護に拳銃携帯の許可を出していない以上、サムライ精神の名残りなのか、平等にと自身も海外に行く際には丸腰で行くのが日本の警察です。しかも、警察官の多くが英語を話せないこともあり、海外では現地警察の言いなりで、不本意でしょうが、「警護」は現地の警察に丸投げの単なるお供なのです。筆者はニューヨークで何度もそう思われても仕方ない場面を目にしました。日本の総理大臣は、日本国民が思うほど外国で優遇されているわけではありません。1番の友好国とも言えるアメリカでも、日本の天皇や、イギリス国王など、国家元首の警護はSecret Serviceが担当しますが、総理大臣の場合はDiplomatic Security Serviceがその警護を担います。さらに、国連総会のようなVIPが多く訪れるイベントでは、Diplomatic Security Serviceが全てのVIPの警護をカバーすることが出来ず、脅威レベルの高い国が優先されるため、脅威レベルの低い日本の総理大臣には現地警察 (NYPD)のオフィサーが付けられることも珍しくないのです。そういった事情で、人数調整のために駆り出されてきた現地の警察官は、警護のプロではありません。しかし、英語が話せないため意見交換ができないのか、郷に入っては郷に従うこと、強く主張せず謙虚でいることが美徳だと思っているからか理由はわかりませんが、警護のプロであるはずのSPが、彼らの言いなりになっているのです。
筆者の前所属先の国連警備隊を含め海外の主要国の警護は、海外だからと言って現地の警察官に主導権を握らせる気もなければ、護ってもらおうとも思っていません。勿論、道などを含め現地警察の協力は必要ですし、利用出来るものは最大限に利用します。しかし、何かあればとにかく自分達でという気持ちが非常に強いのです。シークレットサービスなどとは異なり少人数で色々な国を飛び回っていた筆者のチームは、現地のサポートを他よりも大事にしていましたが、数日前、数ヶ月前に会っただけの現地サポートをどこまで信用して良いかというのは判断が難しいため、現地の警護サポートには絶対にシェアしないプランが用意されていました。
例えば、高級ホテルを狙った自爆テロが多かったインドの某地域に行った際には、現地サポートチームと入念に話し合い、夜間に襲撃を受けた場合の対応方法をまとめましたが、それとは別にチームのメンバーのみが知る全く別物のプランも用意されていました。
海外の警護官たちは、現地の警察に護ってもらう必要があるSPとは異なり、現地のサポートを盾にしてでも自身のVIPを護る気でいます。G7やG20では、そういった各国の警護のプロが集まりますから、安倍元総理の事件のような大失態が起こる可能性は低いでしょう。むしろ懸念されるのは、世界的なイベントを日本で開催するということで、変に緊張して普段では考えられないようなミスをすることです。実際、大阪で開催されたG20では中国の車列が初日に事故を起こしましたし、同日、曲がる道を間違えた車列を先導する警察車両が急ブレーキを踏み、後続の国連事務総長を乗せた車列もあと数センチで玉突きになるあわやということもありました。こうしたことからも、自国開催だからと気負わずに、外国訪問の際と同様、各国の警護官たちにお任せするくらいの気持ちで肩の力を抜いた方が逆に良いパフォーマンスが出来るのではないかと思います。
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